全ては解決し 全ては収束し 全ては過去の事 でも何も終っていない事に私達は気付いていなかった 笑顔で泣いている神様以外は 昭和59年6月 去年の100年続いた6月も終わり、私達は暖かい時の流れの中を過ごしていた 一年が過ぎ、永遠に始まらないと思っていた新作アニメの続きが出て、新しいお菓子が出て(私はあまり興味が無かったが)、新しい会社が出来て、いくつかの会社が無くなって そして皆は少しだけ成長して 魅音と詩音は仲良く浪人生になって(なぜか浪人中なのに雛見沢分校に来ているのははたしていいのだろうか?) 小さな私の手は少しだけ大きくなっていた 「梨花ぁ、何をぼーっとしてますの?」 梨花「ごめんなさいなのです沙都子。少しだけ物思いにふけっていたのですよ、にぱー☆」 沙都子「もう!物思いにふけるのはいいですけど、今はお掃除中でしてよ!ほら、おどきあそばせ!」 梨花「怒ったら嫌なのですよ沙都子ー・・・羽入〜、沙都子がボクをいじめるのです〜」 羽入「・・・・・・」 梨花「羽入?」 沙都子「羽入さん?」 羽入「・・・・・・」 梨花「羽入!」 羽入「あうあうあう!?どどどどうしたのですか梨花!?」 梨花「どうしたのですか羽入?何だか元気がないようですよ?」 沙都子「梨花の言うとおりでしてよ?何か悩みでもあるんじゃございませんこと?」 羽入「い、いえ!僕は元気イッパイです!ほら!このとーり!」 梨花・沙都子「・・・」 〜翌日学校にて〜 圭一「羽入の様子がおかしい?」 梨花「そうなのです。ここ最近、何だかよく遠くを見てぼーっとしてることが多いのです」 レナ「どうしたんだろうね羽入ちゃん・・・何か悩み事でもあるのかな?かな?」 沙都子「それが、私どもが聞いても教えてくれないんですの・・・」 魅音「一体何があったんだろね?誰か心当たりは無いの?」 詩音「うーん・・・例えばですけど、お姉が気がついてないだけで、何か羽生さんを傷つけるようなこと言ったんじゃありません?お姉って昔から空気読めませんし」 魅音「ちょっ!ちょっと詩音!あんた突然何を言い出すのさ!・・・って、皆もなんで納得してるような顔してるのよー!」 梨花「大丈夫ですよ魅ぃ、謝れば羽入もちゃんと許してくれるのです。にぱー☆」 圭一「土下座して謝るんだぞ魅音?なーんて冗談はさておいて、ちょっと心配だな」 レナ「そうだね・・・もしかして・・・もしかしてだけど、一年前の事件が何か関係してるのかな・・・」 一同「・・・・・」 圭一「なあ羽入」 羽入「どうしましたか圭一?」 圭一「えっとな・・・あー・・・単刀直入に聞くが、最近何を悩んでんだ?」 羽入「え・・・?突然どうしたのですか圭一?僕は何も悩みなんて・・・」 圭一「ストップ。『僕は悩みなんてありません』なんて無しだぜ?だって顔に書いてある」 羽入「あう!?か、顔にですか!?あうあう・・・梨花のいたずらでしょうか・・・?あうあうあう」 圭一「いや、そうじゃなくて、言わなくても表情に出てるんだよ。『悩みがあります』って。みんな・・・特に沙都子と梨花ちゃんは凄く心配してたぜ?」 羽入「あう・・・」 圭一「羽入の悩みってのは誰にも言えないような悩みなのか?」 羽入「・・・・・・あうあう・・・」 圭一「それは・・・部活メンバーの誰にも話せないような事なのか?」 羽入「・・・・・あう・・・・」 圭一「家族同然の沙都子や・・・梨花ちゃんにも話せない事なのか?」 羽入「・・・・・・」 圭一「そうか・・・わかった。でもな羽入、俺たちは仲間だ。あの一年前だって俺たちは仲間を信じきったからこそ運命を打ち破れた。だからきっと、羽入の悩みだって相談してくれたらきっと俺たちが解決してやる。」 羽入「・・・ごめんなさい・・・」 圭一「俺たちは羽入が打ち明けてくれるのを待ってる。そして、例え羽入が殺されるっていう悩みだったとしても絶対に解決してやる!絶対だ!それだけは覚えといてくれ。じゃあな」 羽入「それでも・・・どうしようも無いことなのです・・・もう・・・終わってしまった事なのですから・・・」 〜綿流しのお祭り当日〜 魅音「さあ!やってきました綿流し!!みんな!準備はいいかい!?」 一同?「「おー!!」」 魅音「って、羽入?どしたの?」 羽入「・・・・皆さん、大事なお話があります」 梨花「それはお祭りが終わってからじゃ駄目な話なのね?」 羽入「はい。そしてとても大事なお話です」 梨花「いいわ。話してちょうだい」 羽入「はい。皆さん、今から鬼ヶ淵沼に来ていただけませんか?」 沙都子「私はいいですけど・・・梨花は奉納演舞があるんじゃ・・・」 梨花「・・・大事な事なのね?羽入」 羽入「はい」 梨花「行くわ」 一同「「!!」」 圭一「いいのかい梨花ちゃん?大事なんだろ奉納演舞」 梨花「大事だけれど、それは家族と比べたら些細な事よ。あなたが私と同じ立場だったらきっとそう言うでしょ?圭一」 圭一「勿論だ」 レナ「うん、あたしもきっとそうする。話してくれるのが梨花ちゃんでも圭一君でも魅ぃちゃんでも沙都子ちゃんでも詩ぃちゃんでも、そして羽入ちゃんであっても」 沙都子「私だってそうですわ。それに・・・羽入さんはもう私の家族のようなものですもの。真剣な悩みを聞かない家族なんておりませんわ」 魅音「かー!部長冥利に尽きるねぇ!皆よくぞ成長してくれた!あたしも当然行くよ!あっはっはっは!!」 詩音「お姉が成長させたんじゃなくて、みんなそれぞれが成長したんですよ?むしろお姉は勉強の成長をしないとダメです♪あ、当然あたしも行きますよー♪」 魅音「しーおーん!あんただってあたしと同じぐらい勉強できないじゃん!もー!あ!羽入、今笑ったでしょ!?もー!!」 羽入「あははっ・・・皆さん・・・本当にありがとう・・・」 〜鬼ヶ淵沼にて〜 圭一「それで?一体話ってのはなんなんだ羽入?」 羽入「はい・・・実は・・・皆さんとお別れしなくてはいけないのです」 一同「「!?」」 梨花「ちょっと・・・どういうことよそれ!?お別れって何!?悩みがあってそれを解決する為に悩みを話すんじゃないの!?ねえ羽入!!どういうことよ!?」 羽入「・・・・」 梨花「黙ってちゃ・・・黙ってちゃわからないわよ羽入!!答えなさい羽入!!」 沙都子「梨花、落ち着いてくださいまし。羽入さんの話を最後まで聞いてみなくてはいけませんわ。だから・・・もう少しだけ落ち着いてくださいまし」 梨花「これをどうやって平気な顔で落ち着けっていうの!?ねえ!!ねえ!!」 レナ「リカちゃん!!沙都子ちゃんが平気だと本当に思うの?」 梨花「!?(沙都子の手・・・震えてる・・・歯だって食いしばってる・・・なのに私は取り乱して・・・)」 梨花「ごめんなさいなのです・・・」 沙都子「よろしくってよ梨花。それで羽入さん、なぜお別れなのか話してくださいますよね?」 羽入「はい」 話の内容はこうだ 確かに一年前の事件は解決したように見える。 だがしかし、雛見沢症候群については何一つ解決してはいないのだ。 今は健康そうに見える皆も、実はその病気に侵されている。 入江も頑張ってはいるものの、本当に三年(今ではもう二年)で特効薬が開発できるかはわからない。 そしてここからが羽入が話してくれたお話。 実はこの病気には特効薬なんて無い。 羽入も昔、この病気について調べていたが、結果として弱らせることは出来ても根本的な解決方法は無いのだ。 いや、解決方法ならある。 その解決方法は羽入の消滅。 なぜ羽入が消滅したら病気の解決になるのかについては、羽入は自分が最初の感染者であり、更に自分が撒いたからではないか?と言った。 当然、そんな馬鹿げた話を信じるわけが無い。 第一、羽入が消えた後の事をどうやって知るというのだ? 皆が口々にそう言い、羽入を思いとどまらせようと必死になった。 しかし羽入はこう言った。 羽入「僕は・・・僕のいない世界を見てしまったのです・・・」 その世界では、今と同じように惨劇を回避し、皆が笑って過ごしていた。 そしてその皆の中には、病気の完治した沙都子の兄である聡が含まれていたというのだ。 聡の名が出た時、沙都子と詩音の身体がピクリと震える。 それもそのはずだ。未だに聡は入江診療所の地下でいつ目覚めるともわからない状態なのだから、その聡が元気になるというのなら、聡を特に大切に思っている二人からしたら大きな事。 でも、それでも私は納得できなかった。 納得できるはずが無い。 だって羽入は、誰よりも私の傍にいてくれたかけがえの無い私の家族なのだから。 梨花「それでも・・・それでも家族が消えるのを私はこれ以上見たくない!!絶対・・・見たくない・・・」 羽入「梨花・・・ありがとうなのです・・・でも、僕は沙都子や詩音に家族を帰してあげたいのです・・・」 詩音「何を迷うことがあるんですか?聡君が帰ってくるんでしょう?なら消えればいいじゃないですか」 沙都子「詩音さん!?」 魅音「ちょっ・・!詩音!?あんた自分が何を言ってるかわかってんの!?」 圭一「確かに詩音の言うとおりだな。羽入が消えたら聡が帰ってくるってんなら消えればいい」 羽入「・・・・・・」 レナ「そうだね。私もそう思うな」 梨花「え・・・?何を言ってるの皆?羽入が消えてしまうのよ・・・?私の家族が・・・家族が消えてしまうのよ!?」 羽入「いいのです梨花。きっとこれが正し」 詩音「でもそれは、確実性の無い話ですよね?」 羽入「どういうことですか・・・?」 詩音「どういうことも何も、そういうことですよ」 レナ「そう、確かに羽入ちゃんが見た世界では病気は消えていたのかもしれない。でも」 圭一「それと羽入が関係しているかはわからないってこった。」 羽入「で・・・でもそう考えるのが妥当で」 圭一「妥当かどうかなんてわからない。それが解決策かもしれないしそうじゃないかもしれない。」 羽入「そ・・・それは・・・」 圭一「第一だ、さっきはああ言っちまったけど、俺は誰かが消えたら誰かが幸せになるなんて信じない。もしそうだったとしても全力で皆が笑い合える未来を探し出す。皆が幸せになれる未来はきっとあるんだ!」 梨花「圭・・・一・・・」 詩音「圭ちゃんの言うとおりです。そして羽入さん、二度と・・・二度とあなたの引き換えに聡君をなんて言わないで下さい。そうやって戻ってきたとしても、聡君はきっと喜ばない。それを・・・沙都子が教えてくれたんですから」 沙都子「ねーねー・・・」 レナ「ねえ羽入ちゃん、私は羽入ちゃんの気持ちが少しだけわかるかもしれない。自分が犠牲になったら幸せになれるって私も昔そう思ってたことがあった気がするの。でもね、そうじゃないって教えてくれた人がいた。私の為に一生懸命に相談に乗ってくれて、最善の未来に導いてくれた人がいた。そんな気がするの」 魅音「レナ・・・」 圭一「羽入、俺の手を掴め。皆の手を掴め。」 羽入「あうあうあう・・・」 圭一「俺が・・・俺たちがきっと最高の未来を作り出してやる!」 梨花「羽入・・・幸せになろう・・・?」 羽入「あう・・・・あう・・・僕は・・・僕は皆と一緒にいてもいいんでしょうか・・・?」 一同「「もちろん!」」 羽入「皆・・・皆・・・僕も・・・僕も幸せに・・・幸せに・・・なりたいです・・・」 羽入が伸ばした手を皆が掴んだ瞬間に、ふっと身体が軽くなる この感覚は覚えている 私が殺され、時を遡る時のあの感覚 でも今回は少し違っていた 周りを見渡すと圭一もレナも魅音も沙都子も詩音もいるのだ 皆が口々に驚く 当然私も驚いていた こんな事は初めてで、しかもいつもみたいに彼女が居ない 梨花「羽入!?羽入!?」 私の声が空間に虚しく響く そして私の意識は引っ張られ、時を遡るのがわかった 意識が途切れる瞬間に、私はどこかで聴いたことのあるような声を聞いた気がする 「助けてあげて下さい」 〜???〜 「・・・ちゃ・・・梨・・・ちゃん・・・梨花ちゃん!!」 梨花「ん・・・ここは・・・森・・・?」 圭一「よかった・・・梨花ちゃんだけ長いこと目が覚めないから心配したぜ」 梨花「圭一・・・ボク達はどうしたのですか?」 圭一「それが俺にもさっぱりわからん。他の皆は眠ったまま起きない梨花ちゃんを一人が交代で見つつ固まって周りを探索してる」 梨花「皆・・・・皆!?羽入!!羽入は!?」 圭一「それが・・・羽入だけどこにも居ないんだ」 梨花「どういう・・・こと・・・?」 最初に目覚めたのはレナだったらしい そして横で寝ている私達を見つけ、順番に起こしていったそうだ(羽入だけいなかったが) 起きない私を看病しつつ、皆は羽入を探してくれたらしい だが、私が目覚めない二時間ほど探し回って、今のところ収穫はゼロ 探索場所を広げるなら私が目覚めてからしかないだろうということで、皆は誰かのいそうな場所の見当を付けようとしているらしい 常人なら慌てふためくようなこんな状況で、流石部活メンバーというべきか だが今はそんなことに驚いている暇は無い 私が目覚めなかった為に探索場所が狭まっていたというならば、私が目覚めた今からは羽入を探すためにどこまでも行ける ここがどこかはわからないけれど、きっと羽入を見つけ出してみせる そう誓って私は一年前より少し大きくなったこぶしを握り締めるのだった レナ「あ、梨花ちゃん起きたんだね!よかったぁ」 圭一「おう、戻ってきたか。で?どうだった」 詩音「残念ながら羽入さんの行方はわかりませんでした」 梨花「・・・・・・」 魅音「だけど、民家っぽいのなら見つけたよ。沙都子のお手柄だね」 沙都子「そうたいした事ではありませんわ。獣道でしたけど、ハッキリ足跡が付いていましたので、それを辿っただけですもの」 魅音「いやー、でも大したもんだよ。あたしじゃちーっともわかんなかったってのに」 圭一「でかしたぞ沙都子!」 梨花「でかしたのです。いーこいーこしてあげますのです、にぱー☆」 沙都子「ちょと・・・!もう、おやめくださいまし。褒めても何も出ませんでしてよ」 圭一「よし、それじゃあ立てるか?梨花ちゃん」 梨花「全く全然問題ないのですよ♪その民家までファイトおー!なのです♪」 レナ「あははっ、やっぱり梨花ちゃんはそうしてる方がかあいいよ〜♪おっもちかえり〜☆」 魅音「はいはい、お持ち帰るにしても、とりあえずここが何処だか調べる方が先だよー」 詩音「そうですね。何が原因かはわかりませんが、取りあえずここは私達の知ってる雛見沢じゃないようですし」 沙都子「それなんですが、ちょっと私不思議に思ってることがありますの」 圭一「不思議に思ってる事ってなんだよ?」 沙都子「この地形・・・裏山じゃありませんこと?」 圭一「裏山?裏山ってお前の仕掛けたトラップ満載のあの裏山か?」 沙都子「ええ。でも不思議なんですの。地形はそっくりなんですけど、植物の生え方が違ってたり、あるはずの木が無かったり、逆に無いはずの場所に木があったりしますの」 圭一「つまりどういう事だよ?」 沙都子「それがわかれば苦労はしませんわ。でも、皆さんもなんとなく見覚えがありませんこと?」 魅音「言われてみれば・・・確かにそんな感じもするね」 詩音「私は裏山の地形はあまり詳しく無いからわかりませんけど、レナさんや梨花ちゃまはどうですか?」 レナ「うーん・・・言われてみれば・・・かな?でも気のせいじゃないかな?かな?」 梨花「いいえ、気のせいじゃありませんです。ここは・・・裏山だと思いますのです」 詩音「なぜ言い切れるんです?」 梨花「ボクと沙都子は二人で遊ぶ時はずっと裏山でした。だから覚えてるのです。地面の感触や空気を。そしてそれらが全てここが裏山だと言っているのです」 圭一「何か梨花ちゃんが言うと信憑性あるな。梨花ちゃんが言うと、な?」 沙都子「なんで私の顔を見ながら言いますの?なんだか無性に腹が立ちましてよ」 レナ「はう〜☆怒ってる沙都子ちゃんかぁいいよ〜♪おも」 魅音「はいお持ち帰りストーップ。取りあえず、ここが裏山かどうかはさておいて移動しようよ。もうすぐ日も暮れちゃいそうだし」 圭一「そうだな。よし、行こうぜ皆!」 一同「「おー!」」 その時、私の耳に聞き覚えのある音が聴こえた それは、あの一年前に何度も聴いたひぐらしの鳴き声 魅音「民家発見!よし、全員いくぞー!」」 皆「「おー!」」 魅音「ごめんくださーい」 「はいはい・・・どなたで・・・ヒッ!」 魅音「え?えっと、すいませんがここってど」 「ヒィィィっ!!鬼じゃ!お助けぇっ!!」 魅音「え?え?」 詩音「お姉どいて下さい!まったくもう・・・こんなお婆さん怖がらせるなんて流石はって感じですねえ」 魅音「え?わ、私のせい!?私なんか変なこといっちゃった!?」 詩音「自覚が無いのも困り者ですねえ。そうですよねー、お婆さん?」 「ヒィィィッ!!鬼が・・・鬼が増えたっ!!」 魅音・詩音「・・・・・・」 梨花「二人ともどいてくださいなのですよ。お年寄りならボクにお任せなのです♪にぱー☆」 「お・・・桜花!?で・・・出てけっ!!鬼を使わせて家に不幸を撒きん来たんかっ!!出てけっ!!」 梨花「ど、どういうことですか?ボクは梨花で」 圭一「危ない梨花ちゃん!!」 レナ「圭一君!!」 沙都子「圭一さん!?」 詩音「ちょっと・・・洒落になってないですよ婆さん!!いきなり鎌で切り付けるなんて何考えて」 魅音「詩音!!放っておきな!それより・・・逃げるよ!その婆さん本気だ!本気であたし達を殺しかねない!圭ちゃん、走れる!?」 圭一「ああ、ちょっとかすっただけだ。俺は大丈夫だから逃げるぞ皆!」 沙都子「一体・・・ハァハァ・・・何が・・・どうなって・・・ますの・・・?」 梨花「ここが・・・裏山の近くならここは雛見沢じゃないの?ここはどこなの・・・けほっ!けほっ!」 レナ「梨花ちゃん大丈夫!?」 梨花「僕は・・・けほっ、少しむせただけなのです。それより圭一は?圭一は大丈夫なのですか?」 圭一「ああ、心配すんなって。このぐらいの怪我、あの時にくらべた・・・イテッ!」 魅音「圭ちゃん!動かしちゃダメだよ!ほら見せて!応急処置しとくから」 圭一「すまん・・・しかし、急に切りかかってくるなんて無茶苦茶だぜ。俺が腕でかばったから良かったけど、かばわなかったら梨花ちゃんの顔面大怪我してたぞ」 詩音「そうですね。しかも全く迷いがありませんでした。あの場にいたら梨花ちゃまは殺されていたかもしれません」 沙都子「そんなっ!なんで梨花を殺さなくてはいけませんの!?もうあの事件は終わったのではございませんこと!?」 レナ「人違い・・・かもしれないね」 詩音「恐らくはそうでしょうね。あの婆さんが言ってた『桜花』っていう人に間違えられたんだと思います」 魅音「・・・っと、よし、これでしばらくは大丈夫だと思うよ。でもあんまり無茶はしないでよ圭ちゃん」 圭一「おう、ありがとうな魅音。大分楽になったぜ」 魅音「でも、あくまで応急処置だからね。本当はきちんと消毒とかした方がいいと思う」 梨花「ごめんなさいです・・・ボクのせいで・・・」 圭一「気にすんなって梨花ちゃん。それよりも梨花ちゃんに怪我がなくって幸いだっ」 レナ「皆!!隠れて!!向こうから誰か来る!」 梨花「あれは・・・ボク・・・?」 レナ「梨花ちゃん!!早くっ!!」 「あなたは・・・?」 レナ「梨花ちゃんを離しなさい!!私の友達に怪我させたら許さないんだから!!」 圭一「待てレナ!一人じゃ危険・・・ツッ!!」 「そちらの方、怪我をされてるんですか?」 圭一「だったらどうだって言うんだよ?言っとくけど俺は手負いの方が怖いんだぜ?あんたも自分が可愛かったら梨花ちゃんに危害を加えるな」 「危害なんて加えませんよ。私の後ろに回りこんでいる方達も落ち着いて下さい」 魅音・詩音・沙都子「!!」 「友達思いはいいですが、私はあなた方に危害を加えるつもりはありません。ですから」 圭一「ですからどうだっていうんだ?」 「あなたの怪我を治療させてください」 圭一「へ?」 「これで大丈夫だと思います」 圭一「あ・・・ああ、ありがと」 「どういたしまして。さて、ではあなた方の事をお聞きしてもいいですか?」 詩音「人に尋ねるときはまず自分からじゃありませんか?」 魅音「ちょっと!やめなよ詩音!治療してもらってそれはないでしょ」 「いえ、そちらの・・・詩音さん?の言うことも最もです。私の名前は桜花」 梨花「桜花・・・」 桜花「鬼ヶ淵村の古出神社の巫女である古手桜花と名乗ったらわかりますでしょうか?」 圭一「鬼ヶ淵村?古手神社?どういう事だよ?何がどうなってんだ?」 詩音「つまり、ここは雛見沢・・・じゃなくて鬼ヶ淵村で、おなたは古手神社の巫女で・・・ごめんなさい、頭痛くなってきました」 沙都子「無理もありませんわ。私だって大パニックでしてよ」 魅音「はー・・・ついにおじさんも時空を越えちゃったかぁ・・・」 圭一「お前らー、帰ってこーい」 レナ「つまり、あなたは古手神社の現時点での巫女で、ここは間違いなく雛・・・鬼ヶ淵村ということですね」 桜花「はい。間違いありません。では、今度はこちらが質問してもよろしいですか?」 圭一「ああ、構わないぜ。そういう約束だったし、治療してもらった礼もあるしな」 桜花「あなた方は・・・特にそちらの梨花さん?は何者なのですか?」 梨花「ボクは・・・いえ、私は・・・」 桜花「なるほど。あなたも古手神社の巫女だと・・・そう言うんですね。そして皆さんはブカツ?の仲間だと」 梨花「ええ。そして私達はもう一人の仲間である羽入を探してるの」 桜花「正直、それが一番驚きました。どうしてあなた方はその名前をご存知なのですか?」 梨花「羽入の居場所を知ってるの!?お願い!教えて!!」 桜花「・・・その前にまず、本当にあなたが羽入のお知り合いなのか、羽入に確認を取ってもよろしいですか?」 梨花「確認も何も私はっ!!」 レナ「梨花ちゃん、ちょっと待って。桜花さん、一つお聞きしていいですか?今は一体西暦何年なんでしょうか?」 その場に居た部活メンバーは恐らく全員気付いていたのだろう だから桜花に告げられたこの時代を聞いてもさして驚きはしなかった ただ、魅音が一言「おじさん時を越えちゃったかー・・・」と呟いたのがなぜか印象的で、重くなっていた空気が少しだけ軽くなったのを覚えてる。 しかし、時代が何であろうと今一番の問題は羽入の安否 私が知りたいのはそれだけなのだ 桜花「昭和・・・ですか?申し訳ありませんが、聞いたことがありません。」 レナ「そう・・・ですか」 梨花「年代なんてどうだっていい!羽入は!?羽入はどこなの!!答えて!!」 桜花「仕方ありません、では梨花さんだけ私についてきてもらえますか?」 沙都子「ちょっと!どうして梨花だけですの!?やましいことが無いなら私たちが同行しても何の問題もありませんこと?」 魅音「確かに。せめてあたしか詩音かレナを同行させる訳にはいきませんか?」 桜花「申し訳ありませんが出来ません。梨花さん以外の方が来るというのなら、私は案内を致しません」 詩音「それってどう考えても罠にしか思えないんですけど?梨花ちゃまを連れ出した後、こっそりさっきの婆さんみたいな人に渡さない保障がどこにあるんです?」 桜花「私を信じてもらう他ありません」 詩音「そんなこと言ったって!」 レナ「私、桜花さんを信じる」 詩音「レナさん!?」 圭一「俺もレナに賛成だ。桜花さんは悪い人じゃない。俺の怪我の治療のときの感触は、何か悪事を考えてるように思えなかった」 詩音「圭ちゃんまで・・・もう!私は知りませんよ!!全く・・・」 梨花「では、行ってくるのですよ、にぱー☆」 圭一「おう!行って来い!ついでに、心配かけさせたお詫びに俺様のデコピンが罰ゲームだって伝えといてくれ!」 レナ「じゃあね!じゃあね!レナは羽入ちゃんを一晩おっもち帰りした〜い☆」 魅音「シシシ、じゃあおじさんはバニーガールを要求しようじゃないか!」 詩音「それじゃああたしはメイドさん衣装を要求します♪」 沙都子「私は・・・私の作った晩御飯をまた一緒に食べてもらう罰ですわ」 梨花「沙都子の罰ゲームが一番難易度高そうなのですよ、羽入がかわいそかわいそなのです」 沙都子「こらー!なんて事を言いますの梨花ぁっ!!」 梨花「わー、沙都子が怒ったのですー。逃げろーなのです♪」 桜花「友達が帰ってくることを疑わない、いいお仲間ですね」 梨花「ええ、自慢の仲間よ」 桜花「ここです」 梨花「ここ・・・ですか?」 桜花「ええ。ちょっと待っててください・・・羽入!いるのでしょう羽入!!出てきてください!」 羽入「どうしたのです桜・・・桜花!その人間は・・・人間は・・・桜花・・・?」 梨花「羽入・・・羽入ー!!どこに行っていたの!!心配したのよ!!馬鹿!!激辛キムチの刑でもワインの刑でも許さないんだから!!でも・・・よかった・・・ほんとに・・・」 羽入「・・・何者だお主?なぜ私の名を知っている?なぜ私の姿が見える?この鬼である私を!!」 梨花「羽入・・・?何を言ってるの?」 羽入「わからぬのはお主であろう!!答えよ!!答えぬのであれば・・・」 桜花「お待ちなさい羽入!その方は、梨花さんは私やあなたに危害を加えにきたのではありません」 梨花「羽入・・・何で・・・何で・・・?」 羽入「では、お主は私を知っていて、私もお主を知っていると申すか」 梨花「そうなのです・・・」 羽入「生憎だが私はお主を知らぬ。そのブカツ?めんばー?とやらもな。わかったのなら即刻私の目の前から消えよ」 梨花「羽・・・入・・・」 羽入「気安く名を呼ぶな!私は鬼ぞ!ここは私と桜花のみに許されし場所!!立ち去れ!!」 桜花「梨花さん、行きましょう。きっとこれ以上はあなたが辛くなります」 梨花「嫌よっ!!折角・・・折角見つけたのにこんなのは嫌っ!!羽入!!はにゅ」 羽入「呼ぶなというたぞ」 桜花「やめなさい羽入!その爪で何をするつもりですか!!」 羽入「知れたこと。黙らぬなら黙らせるまで」 梨花「いやだ・・・こんなのいやだ・・・うそだ・・・うそだあああああっ!!」 桜花「皆さん、手を貸していただけますか?」 詩音「梨花ちゃま!?あんた・・・あんた梨花ちゃまに何をしたっ!!」 桜花「羽入と会ったことが辛すぎて気を失ってるだけです・・・横にならせてあげてください」 圭一「一体何があったってんだよ・・・」 桜花「これが、羽入と出会って起きた事の一部始終です」 沙都子「そんな・・・羽入さんが梨花を・・・?ありえませんわ!!絶対にありえません!!」 桜花「同じ事を梨花さんも思ったのでしょうね。見ていて辛かった・・・そしてあなた方を同行させなくて本当によかった。もし同行させてたら・・・」 圭一「今頃みんな仲良く羽入の爪の餌食ってか・・・笑えないぜ」 詩音「そもそもですが、羽入さんが鬼?っていうのはどういうことですか?私達のいた学校には普通の学生さんだったじゃないですか?それが鬼?鬼ならここに一人いるし、これ以上はいりませんよ」 魅音「しおーん?あたしを見ながら言うのはやめようねー?でも確かに気になるね。説明してもらってもいいかな桜花さん」 桜花「それは・・・」 梨花「それはあたしが話すわ」 沙都子「梨花!起きても大丈夫ですの!?」 梨花「ええ、大丈夫よ沙都子。ありがとう」 レナ「梨花ちゃん、説明・・・してもらえるかな?かな?」 梨花「ええ、こうなったら秘密にしていても始まらないし、何より私一人の力じゃどうしようもない。皆・・・助けて・・・」 一同「「勿論!」」 レナ「オヤシロ様はやっぱりいたんだ・・・」 梨花「ええ。そしてレナにいつか面と向かって謝りたいって言っていたわ。いえ、レナだけじゃない、皆に謝りたいって」 レナ「そんな・・・謝る必要なんて」 梨花「まあケジメってやつでしょうね。あなた達ならわかるでしょ?」 魅音・詩音「・・・・」 圭一「俺は・・・薄っすらだけど覚えてる。その時間を越え、世界を越えた場所ってやつを。まあ言われるまで忘れてたけどな」 梨花「圭一、あなたは本当に凄い人。だからきっと今度もまた世界を変えられるって思ってる」 沙都子「・・・・」 梨花「沙都子・・・」 梨花「沙都子には本当に謝っても謝りきれない程の贖罪をしなくちゃいけないと思ってる」 沙都子「・・・・」 梨花「私を軽蔑してくれていい。叩いたって構わない。私はあなたからならどんな罰でも受け入れる覚悟ができてる」 沙都子「・・・梨花?」 梨花「さと・・・あいたっ!」 沙都子「おーっほっほっほ!圭一さん直伝のデコピンはさぞ痛いでしょう?流石の私も脅えてしまいますもの♪ですから、もう罰は与えましたことよ」 梨花「沙都子・・・ボクは・・・ボクは・・・」 沙都子「ほら、泣かないでくださいまし。私は今の話を聞いて、梨花に心から感謝してますのよ?これからもずっとずっと友達・・・いえ、家族でいてくださいまし」 梨花「沙都子ぉっ・・・沙都子・・・沙都子っ!!」 魅音「それじゃあ話をまとめるね。まず、今の羽入は恐らくあたし達が知ってる羽入じゃない」 梨花「それは間違いないのです」 魅音「うん。そして、周りの状況を考えるに、おそらく今の羽入は過去の羽入。だからあたし達を知らない」 レナ「記憶を失ってるって可能性は無いかな?かな?」 梨花「・・・角の傷」 圭一「角の傷って、あの左角にあった削れてるとこか?」 梨花「そうなのです。その傷がさっき会った羽入には無かったのです。恐らく、この時代の羽入に何らかの事情があって角が傷ついたのだと思うのです」 魅音「なる程・・・ということは過去の羽入説が濃厚だね。さて、次の問題だけど」 詩音「私達の時代の羽入さんはどこに行ってしまったのかってことですね」 魅音「そう。今居る羽入が別人なら、あたしたちの時代の羽入を探さなくちゃいけない。安否がわからないからできれば早急にね」 魅音「そして一番の問題は」 沙都子「私たちが元の時代に戻る方法ですわね」 魅音「そう。例え羽入を見つけたとしても、戻れないんじゃ意味が無い。ということはあたし達がやらなくちゃいけないことは?」 圭一「取りあえず今居る羽入は別人だということで置いておいて、元の時代の羽入を見つけて皆で戻るってことか」 魅音「正解。ただね、どうしてもわからないことがあるんだ」 レナ「どうして私達がこの時代に来たのかってことだね」 魅音「そう。いくら梨花ちゃんや羽入に特別な力があるっていっても、何の意味もなくあたし達を全員タイムスリップさせるなんて考えられない」 詩音「つまり、何らかの理由があると」 魅音「そういうこと。これはあたしのカンなんだけどさ、その理由を見つけて解決しないとあたし達は戻れないんじゃないかなって思う」 梨花「そして、その理由に羽入も関係している可能性が高いということなのですね」 魅音「よくできました♪」 圭一「よし!目標がわかったことだし、今後はそれを解決するために動くってことで・・・って、どうしたんだ桜花さん?ぼーっとしちゃって」 桜花「いえ、話を聞いてる限り私の想像の範疇を越えていることばかりで・・・何より、そんな状況なのに皆さん落ち着いてらっしゃるので・・・」 詩音「あはは♪まああたし達アクシデントには慣れてますから♪」 レナ「はう〜♪絶対羽入ちゃんを取り戻して元の時代に帰るんだよ〜♪」 沙都子「お〜っほっほっほ♪どんな難題が来るか楽しみでしてよ〜♪」 魅音「よく言った!それでこそ部活メンバー魂ってやつだよ!!うっしゃあ!おじさん燃えてきたよー!」 梨花「ふぁいと・おー!なのです♪」 一同「「おー!!」」 桜花「これが信頼しあった仲間なのですね・・・」 〜数日後〜 圭一「とは言ったものの」 レナ「見つかんないね・・・理由」 詩音「形があるものか無いものか、それが何なのかさーっぱりですからねえ」 魅音「せめて『伝説の剣を手に入れろ』とか『悪いドラゴンを倒せ』とかだったらわかりやすいのかもしれないけど」 沙都子「『タイムスリップした原因をつかめ』ですものねえ・・・はたして何が理由やら・・・」 梨花「みぃ・・・・」 圭一「まあめげずに探すしか・・・ってなんだか外が騒がしくないか?」 魅音「言われて見れば何だか騒がしいね」 詩音「ちょっと見に行ってみましょう、みんな息抜きしなくちゃ倒れちゃいますよ」 桜花「それで私にどうしろと?」 「あんた・・・いや、桜花様は鬼と知り合いなんだろ!?なら、なら助けてくれよ!」 「このままじゃ流行り病で村は全滅だよ!助けておくれよ!」 「今までほんとに悪かった!この通り謝るから!だから・・・だから助けてくれ!」 桜花「・・・わかりました。頼んでみます」 「ありがてえ!」 「ありがたや・・・ありがたや・・・」 圭一「流行り病?それの治療を何で桜花さんに頼んでんだ?」 詩音「鬼と知り合い・・・鬼ならば、後のオヤシロ様である羽入さんならば治療できるっていうことでしょうか」 魅音「なる程ね。でも、今までってやっぱあのお婆さんみたいな事してたのかな?だとしたらちょっとムシがよすぎる話じゃないかい?」 レナ「でも桜花さん引き受けちゃってる・・・ちょっと後で聞いてみようよ」 詩音「じゃあ、やはり羽入さんならば?」 桜花「ええ、恐らくは。でも羽入は力を貸してくれるでしょうか?あの人は村人を嫌っています。傲慢で卑しいとそう言って。でも・・・でも・・・」 梨花「多分、引き受けてくれますなのですよ」 沙都子「そうでしょうねえ。いくら今は違うといっても、本質が羽入さんなのですから、大事な方がお願いすればきっと聞いてくださいますわ」 桜花「そうだとよいのですが・・・」 詩音「引き受けてくれるのはいいとして、あなたはそれでいいんですか桜花さん」 桜花「・・・と、おっしゃいますと?」 詩音「あなた、そう・・・例えば鬼に取り付かれてるとかなんとかで、村人から迫害を受けてるんじゃないですか?」 圭一「詩音の言うとおりだ。少なくとも、梨花ちゃんに切りかかってきた婆さんを見る限り、桜花さんが大事にされていたとは到底思えない」 桜花「確かに大事にはされていなかったかもしれません」 レナ「だったら!」 桜花「ですが、私は人です。人が助けを求めていたら救う。当然のことではありませんか?」 一同「「・・・」」 桜花「それに・・・この村には私の夫や子がいます。その家族もいずれ流行り病にかかるやもしれません。ですから、私が行動するのは家族のためでもあるのです」 沙都子「家族・・・そうですの・・・」 梨花「ボクは桜花の思うままに行動すればいいと思うのですよ」 桜花「ありがとう梨花さん」 梨花「お礼を言われる事ではありませんのです。ボクだって桜花の立場ならきっとそうすると思うのです。だってボク等はオヤシロ様の巫女なのですから」 レナ「桜花さん上手く行くといいね」 梨花「大丈夫なのですよ。羽入だってきっとわかってくれますです」 沙都子「そうですわね。きっと今ごと『あうあう!僕にお任せなのですよ!』とか言ってるに違いありませんわ」 圭一「ははっ、違いない。そして『お礼は甘いお菓子を要求するのです!!』とか言ってるに決まってるぜ」 魅音「言えてる言えてる。って、どったの詩音?考え事?」 詩音「あ、いえ、もしもここが過去だとしたら、現代の私達はこの出来事をどうやって教えられてるのかなーって思って」 魅音「現代?ってことは、もしかして今から、いや、今起きてる事は伝承の一つかもしれないってこと?」 詩音「ええ。もしかしてこの流行り病っていうのは、現代には『鬼ヶ淵沼から湧き出た鬼が人々を襲った』という風に伝わったのではないかと」 圭一「とすると、もしかして今流行ってる病気ってのは・・・」 梨花「雛見沢症候群・・・」 詩音「おくまで過程のお話ですけれどね」 圭一「いや、そう考えるとしっくりくるかもしれないな。そして、オヤシロ様、つまり羽入がその病を緩和させて」 詩音「現代に『鬼と人は仲良く暮らしました』って話に繋がるのかもしれません」 レナ「でも、それって少しおかしくないかな?かな?」 圭一「どういうことだレナ?」 レナ「あのね、みんな羽入ちゃんに最後にあった時の事を思い出して欲しいの。あの時羽入ちゃんは『自分が雛見沢症候群の元凶だ』って言ってたでしょ?」 圭一「言われて見ればそんな事を言ってたような・・・」 レナ「もし本当にそうだとすれば、何で自分で雛見沢症候群を流行らせて、それを治療するなんて回りくどいことする必要あるのかな?かな?」 圭一「レナの言うことももっともだ。詩音、お前はわかるか?」 詩音「わかりませんよ、私もあくまで推論で言ってるだけですし、真実はこれからわかるんだと思います」 魅音「結局、あたし達にできるのはただ待ってる事だけなのかな・・・クソっ!歯がゆいね」 桜花「お待たせしました皆さん」 圭一「ど、どうだった桜花さん?羽入は引き受けてくれたのか?」 桜花「はい。最初は少ししぶりましたが、引き受けてくれました」 梨花「羽入・・・やっぱりあなたは羽入なのね・・・」 桜花「羽入は梨花さんにあんな事をしましたが、根は優しい人です。だからきっと、この時代の羽入もいつか楽しく話をしてくれる日がきますよ」 梨花「そうだと・・・いいのです・・・」 詩音「ところで桜花さん、その流行り病について少し教えてくれませんか?」 桜花「ええ?構いませんが、どうしたのですか?」 詩音「実は・・・」 桜花「・・・凶暴になって、最後には喉を掻き毟って・・・ですか」 詩音「そうです。そして発祥の際は疑心暗鬼になり、身体がとても痒くなると思います」 桜花「今流行っている病とは異なりますね。今流行っているのはただの熱病ですから」 魅音「ってことは、これから始まる事は現代にも伝わってない話ってことなのかな」 桜花「ですが、一つ気になったことがあります。その雛見沢症候群という病、私は知っているやもしれません」 レナ「それはどういうことですか?」 桜花「はい。皆さんは鬼ヶ淵沼から出たら祟られるというお話はご存知ですか?」 圭一「ああ。村から出たらオヤシロ様の祟りがあるってやつだろ?嫌ってほど身にしみてるぜ」 桜花「はい。そしてその祟りは、既に今の鬼ヶ淵村に伝わっている事なのです」 沙都子「という事は・・・どういうことですの?」 梨花「つまり、既に伝承の出来事はおこっているかもしれないということなのです」 沙都子「でも、それだとなぜ桜花さんは迫害されてますの?お話では村に平和を授けたオヤシロ様とオヤシロ様の巫女は大事にされるのではありませんこと?」 レナ「まだ雛見沢症候群の救いはされていない・・・違いますか桜花さん」 桜花「・・・はい。今できるのは、村を出ない事。ただそれだけです」 魅音「という事は、これから先、この村では雛見沢症候群と向き合って、少しずつ改善されていくってことかな」 詩音「もしかして・・・」 魅音「ん?詩音どうしたの?」 詩音「いえ、もしかしたらオヤシロ様っていうのは、村人が作り上げた偶像なのではないでしょうか?」 魅音「どういうこと詩音?」 詩音「つまりこうです。これから先、村から出ずによそ者が来たら離さず、緩やかに血を薄くして雛見沢症候群を弱めていく。    その過程でオヤシロ様伝説は作り上げられたのではないか。そういうことです」 レナ「単に祟りだけだと怖がらせて怯えちゃうから、その中に救いを無理矢理入れたってことだね詩ぃちゃん」 詩音「ええ。そして現代では崇められてる古手家やオヤシロ様は・・・ただの都合がいいスケープゴートなのかもしれない。そういうことです」 梨花「・・・・・・」 魅音「詩音!あんた言い過ぎだよ!そんな確証も無いのに梨花ちゃんを悪く言うなんて」 梨花「いいのですよ魅ぃ、ボクは気にしてないのです。それに今はボクをみんなが大事にしてくれる。それだけで充分なのです、にぱー☆」 詩音「梨花ちゃま・・・ごめんなさい」 梨花「本当に気にしてないのですよ詩ぃ。詩ぃは少しでもこの状況を理解しようと頑張っているのですから、ボクはむしろ感謝してますのです」 沙都子「少し話が脱線してしまいましたわね。さて、では皆さん、これからどういたしましょう?」 圭一「どうするっつってもなあ、流行り病の治療法を羽入が見つけるっていう作業において、俺たちに出来ることって何があるんだ?」 レナ「待つこと・・・それだけだと思うな」 魅音「また待機かい!むー!おじさんそれが一番辛いよ」 詩音「はいはい、イノシシじゃないんですから、お姉は少し落ち着いてください」 魅音「しーおーん!!!だぁーれーがーイノシシだー!!」 沙都子「あら怖い。魅音さんに突撃されたら、私ひとたまりもありませんわ〜♪」 魅音「沙都子までぇ〜・・・うー・・・圭ちゃーん、皆がいじめるよー・・・」 レナ「はうぅ♪ら・・・ラブラブだね!だね!」 圭一「ちょ・・・ちょっと待てレナ!違う!断じて違うぞ!!」 梨花「圭一も魅ぃも真っ赤なのです、にぱー☆」 桜花「なんて・・・なんて強い子達なのかしら・・・結束も心も」 〜数日後〜 桜花「薬が完成したそうです」 魅音「やったじゃん!よっしゃ、これで病気が治れば少しは迫害も収まるかもしれないよ」 圭一「だな。早速薬を配ろうぜ!それぐらいなら俺たちにも出来るだろ?」 詩音「いえ、やめておいた方がいいかもしれません」 圭一「ん?何でだよ詩音?」 詩音「忘れましたか圭ちゃん?私達はこの時代では全員余所者なんです。オヤシロ様伝説がしっかりと作られてないにしても、既に余所者は排除か懐柔という掟は出来ているはずなんです」 桜花「詩音さんの言うとおりです。この薬は私が皆に渡してこようと思います。それに、万が一の事があって皆さんに何かあったら、残された方に顔向けできません」 圭一「なる程な・・・でも、魅音じゃないけどもう待ち疲れたぜ。こう、パーッと身体を動かしたい気分だ」 魅音「確かにそうだね。こうワーっと騒ぎたいよあたしは」 詩音「だったら圭ちゃんにお姉、こうしませんか?」 圭一「ん?どうするんだ?」 魅音「・・・何か嫌な予感」 詩音「お姉とデートです♪」 圭一・魅音「は・・・はぁー!?」 魅音「万が一の時の為に桜花さんを隠れながら護衛っていうなら、最初からそう言えばいいのに」 圭一「全くだ。っと、桜花さん次の家に行くぞ」 魅音「いけないいけない。おじさんとしたことが」 圭一「しっかりしてくれよ、ったく。しかし桜花さんいくつ家を回る気だ?もう朝からずっと歩きっぱなしだぞ」 魅音「それだけ村の皆を救いたいんだろうね・・・でも・・・」 圭一「・・・村の連中は助かって感謝してるようには見えないんだよな」 魅音「うん。あれは欲望に満ちた目だよ。少なくとも病気で困り果ててる人の目じゃない」 圭一「同意見だぜ。助けてるはずなのに何だか胸がムカムカしてきやがる」 魅音「でも、桜花さん本当に嬉しそうだね・・・」 圭一「ああ。根っから村の奴らが好きで好きでたまらないって顔だ」 魅音「帰ったら皆に相談してみよう。桜花さんに直接教えるかどうかさ」 圭一「だな・・・」 魅音「・・・という訳なの」 詩音「頭にきますね・・・全員とっちめてやりたい!」 圭一「落ち着け詩音。俺たちが怒っても仕方ないだろう」 沙都子「そうはいいましても、このまま指を咥えて桜花さんが騙されてるのを眺めていろとおっしゃいますの圭一さん?」 圭一「勿論、このままにしておきたいとは思わない。そこで、どうやったら上手く桜花さんに騙されてると気付いてもらうかを皆で考えたいと思って話したんだ」 梨花「直接伝えては駄目なのでしょうか?」 レナ「多分、それじゃ聞き入れてもらえないとレナは思う。桜花さんが村の人の事を話したとき、心から信じてるって言葉からにじみ出てたもん」 魅音「レナの言うとおりだね。あたしと圭ちゃんは直接見てきたけど、桜花さんは自分が騙されてるなんてこれっぽっちも思ってないみたいだった」 梨花「みぃ・・・では、どうしたらわかってもらえますでしょうか」 詩音「だったらこんな手はどうです?」 圭一「直に桜花さんに、桜花さんを騙して喜んでる村人を見てもらうだって?」 詩音「そうです。だってそれが一番手っ取り早くて一番効果がありますし」 魅音「あんたねー・・・それが出来れば苦労はしないってば。他の案を考えようよ」 詩音「じゃあ聞きますけどお姉、他に何かいい方法があります?騙してる村人を拷問でもして吐かせます?」 魅音「そんなことはしないよ!しないけど・・・」 詩音「他に方法があると思えないですよね?」 魅音「うーん・・・確かに・・・」 レナ「でも、詩ぃちゃんの作戦だってかなり難しいんじゃないかな?かな?」 沙都子「それでしたら、私にいい考えがありますわ。梨花、出番ですわよ!」 梨花「みぃ?」 桜花「では行って参ります」 圭一「よし、じゃあ俺たちも行くか魅音」 魅音「そうだね。じゃあ皆、留守の間『しっかり頼む』よ!」 詩音「はい♪」 沙都子「ええ、勿論ですわ♪」 梨花「お任せなのですよ、にぱー☆」 詩音「行きましたね。それじゃあ」 沙都子「作戦開始ですわ!」 梨花「ふぁいと、おー!なのです」 圭一「よし、魅音の読み通り今日は西に向かうみたいだな」 魅音「ひひひ♪あたしを誰だと思ってんのさ圭ちゃん。お望みとあらば特殊部隊だってあたしの手のひらの上さ」 圭一「こういう時はほんと心強いぜ。よし、じゃあ作戦開始!!」 桜花「次の家は・・・あそこですね」 圭一「おわぁっ!!」 桜花「今のは圭一さんの悲鳴!?ど、どうしたんですか!?」 魅音「桜花さん、ゴメン!ちょっと力を貸して!圭ちゃんが・・・圭ちゃんが!」 桜花「わ、わかりました!今行きます!!」 魅音「(頼むよ梨花ちゃん!)」 沙都子「作戦通り、圭一さんと魅音さんが藪の方へ桜花さんをおびき出しましたわ!」 詩音「それじゃあ、頼みますよ梨花ちゃま!何かあったら私達が必ず守りますから気をつけて!」 梨花「二人がいるなら安心なのですよ。では、行ってきますなのです、にぱー☆」 梨花「ごめんください」 「はいはい・・・桜花・・・様じゃねえですか。どうしたんですかい?」 梨花「はい。先日の流行り病の薬を持ってきました」 「あ・・・ありがてえ・・・して、お代は?」 梨花「いりません。早くよくなって下さい。それが私の望みです」 「あ、ありがたや・・・ありがたや・・・」 梨花「いえ。それではお大事に」 桜花「痛むのはここですか?」 圭一「いや、そこよりもうちょっと上、いや下かな?アイタタタタ・・・」 魅音「圭ちゃん!しっかり!しっかり!(詩音からの合図はまだ!?)」 桜花「・・・一見どこも悪いようには見えませんが・・・もしかしたら何か悪い病かもしれません。村を回るのは一旦やめにして、神社の方へ圭一さんを運びましょう!」 魅音「え!?(駄目!神社に戻られたら水の泡!!)」 圭一「待ってくれ・・・桜花さん!!」 桜花「え!?」 魅音「圭ちゃん!?」 圭一「待ってくれ・・・桜花さん!あんたにはやらなくちゃいけないことがある!!村人の為に薬を・・・薬を届ける仕事!!そうだろ・・・?」 桜花「・・・はい」 圭一「なら、ここで戻っちゃ駄目だ!俺は大丈夫!大丈夫だから・・・もう少しだけ・・・傍にいてくれないか・・・?」 桜花「そ・・・それはどういう意味ですか?」 魅音「(・・・口先の魔術師の本領発揮みたいだね圭ちゃん。でもムカツク・・・後で罰ゲーム決定!)」 圭一「そのままの意味です・・・ツッ!!」 桜花「だ、大丈夫ですか!?痛むんですか!?」 圭一「ああ・・・痛みが落ち着いてきた・・・これが巫女の力ってやつかな・・・へへ・・・」 桜花「あの、ただ触ってるだけなんですが・・・」 圭一「なら、きっとこれは愛の力だな。間違いない」 桜花「あの・・・一応私は夫も子もいる身なのですが・・・」 圭一「夫とか子供とか関係ない!愛にそんなもの些細なことなんだよ!!そうだろ?」 桜花「は・・・はあ」 圭一「そう・・・これこそが博愛!!全ての人を包みこむ偉大なる博愛だあああああああっ!!!!!」 桜花「えっと・・・結構元気に見えるのは気のせいでしょうか?」 魅音「圭ちゃぁ〜ん・・・?ちょ〜っと後で話し合おうねぇ〜・・・?」 圭一「・・・・アイタタタタ!!」 沙都子「・・・よし!今ならグッドタイミングですわ!!」 詩音「了解!!」 魅音「(合図!!)圭ちゃん!」 圭一「(!!)あ、あれ!?痛くない!!急にスーッと痛みが引いた!!治った!治ったぜ桜花さん!!」 桜花「は・・・はあ。何だか少し納得いかない点もありますが、治ったのなら良かったです」 魅音「それじゃあ薬の配達の続きを・・・って、あれ?次に行く予定の家ってあそこですよね?」 桜花「はい。そのつもりですが」 魅音「なんだか様子がおかしいような」 桜花「言われて見ると、少し騒がしいようですね。ちょっと様子を見てみましょう」 圭一「もしかしたら危険かもしれない。横の方からそっと覗いた方がいいかもしれません。俺も治ったとはいえ、また急に痛みが来るとも限らないし」 桜花「確かにそうですね。では、そっと覗ってみようと思います」 圭一・魅音「(よし!)」 桜花「・・・・・・これは・・・一体・・・」 「ヒヒヒヒ!!桜花の野郎、本当に金も取らずに薬をくれたぜ!!」 「馬鹿な娘さ本当に!これであたし達も小金もちだねアンタ!」 「ああ!早速明日にでもこれを街で売りさばいて金にしてくらあ!」 「とーちゃん、明日はご飯食べれんの?」 「ああ。馬鹿な姉ちゃんのお陰でな!巫女様様だぜ全く!!」 圭一「桜花さん。これが真実です」 魅音「騙すような真似をしてごめんなさい。でも・・・でもこんなのって・・・こんなのって桜花さんや羽入に酷すぎる!!」 桜花「・・・・一旦神社に戻りましょう・・・少しお話があります」 桜花「では、私に事実を見せるために一芝居打ったと?」 圭一「・・・・はい。騙すような真似をしてすいませんでした。そのことに関しては俺を軽蔑してもらって結構です」 沙都子「圭一さん!?あの作戦は私が考えたのですから、責任は私にありましてよ!?桜花さん、圭一さんは悪くありませんの!あれは私が!!」 レナ「やめよう皆。責任は皆にあるよ。私達全員が桜花さんを騙した事実に違いは無い」 圭一「レナ!戻ったのか。それで・・・どうだった?」 レナ「うん。皆が考えてた通り・・・だね。レナが見た限りの他の家の人も、皆お金だお金だって喜んでた」 圭一「そうか・・・。桜花さん、レナには他の家の様子を調べてもらうよう動いてもらってました。そして結果は・・・今の通りです」 桜花「・・・・そうですか」 梨花「桜花!もうやめましょうなのです!桜花がやってることは救いでも何でもありませんなのです!」 桜花「・・・・果たしてそうでしょうか?」 圭一「どういう・・・ことだよ桜花さん」 桜花「言った通りです。私がしていることは、形はどうあれ救いだと思います」 詩音「そんなっ!桜花さんだって見たでしょう!?村の連中はあなたと羽入さんを食い物にしてるだけなんですよ!?」 沙都子「そ・・・そうですわ!あなたに感謝もせず、あなたを騙して喜んでますのよ!?どうしてそれが救いになりますの!?」 桜花「ではお聞きしますが、あの薬が売られたとして、その薬は捨てられるのですか?」 詩音「あっ・・・」 桜花「そう。きっと病に苦しむ誰かがあの薬を使って病を治すのでしょう。」 魅音「でも・・・でも!それで金を儲ける村人はっ!!」 桜花「そのお金で救われる人もいます。あの家の子供のように」 魅音「でもっ・・・それはっ・・・!!」 桜花「どういう形であれ、あの薬によって幸せになる人はいるのです。だから私はやめません。真実を知ってなお、進みたいと思います」 圭一「ちくしょう!!ちくしょう!!」 魅音「圭ちゃん・・・自分を責めるのはやめなよ・・・」 圭一「でも・・・でもこんなのってあるかよ!!これじゃあまりにも・・・あまりにも桜花さんと羽入が可哀想で・・・ちくしょう!!」 レナ「圭一君。悔しいのはわかるよ。でもね、桜花さんの言ってた事も事実だとレナは思うの。とっても悔しいけど」 詩音「私達は・・・間違っていたんでしょうか・・・」 沙都子「そうなのかも知れませんわね・・・」 梨花「結局・・・桜花に悲しみを与えただけなのかもしれないわね・・・」 圭一「くっそぉ・・・どうしようもないのかよ・・・ちくしょう・・・」 レナ「圭一君・・・」 魅音「圭ちゃん・・・」 こうして私達は何も出来ないまま・・・いや、いたずらに悲しみを増やしただけで数日が過ぎた 沙都子の時は、苦しんでる沙都子へと私達が伸ばした手を沙都子自身が掴んだからこそ救えた しかし、いくら私達が悲しみを回避させようとしても、その本人が本心から悲しいと思っていないのでは救いようが無い 嘘や偽りや偽善で塗り固めた本心ではなく、心の奥底からの本心 それは私達のような子供がどうにかできるものではなかった そしてその日は突然やってくる あの一年前のような あの惨劇のような日 結局、私達は何も変えられなかったのだ 〜古手神社にて〜 「出て来い桜花!!」 圭一「な・・・なんだ!?何がどうしたんだ!!」 魅音「わかんないよ!!でも表から声がした!行ってみよう!!」 レナ「(なんだろう・・・何だか嫌な予感がする・・・)」 桜花「ぐぅっ!!」 圭一「桜花さん!!テメエっ!!桜花さんに何しやがんだっ!!」 村人「あぁ?何だお前は?知らない顔だな・・・余所者か?」 詩音「余所者だろうが何だろうが関係ないでしょう!!女性を多人数で囲んで暴力を振るうなんて最低です!!」 村人「何だ何だぁ?お前らこの鬼の使いの仲間かぁ?ならお前らも同じ目にあわせてやんないとなぁ!!」 桜花「駄目です皆さん!!逃げ・・・うあっ!!」 圭一「て・・・てめえらああああっ!!!」 レナ「圭一君!!」 圭一「ぐあっ!!ち・・・ちくしょう!!」 村人「なんだこの餓鬼、勢いだけかよ情けねえ」 圭一「がぁっ!!ゲホッ!!オエエッ!!」 魅音「や・・・やめてよっ!!圭ちゃんに乱暴しないでっ!!やめ・・・あぐっ!!」 圭一「み・・・みお・・・ガッ!!」 村人「おーおー、可愛いねえ。でもな餓鬼共、この鬼ヶ淵村じゃあ余所者は排除されるんだ。例え・・・女子供でもなっ!!」 魅音「あぐっ!!ぐっ!!」 詩音「お姉!!お姉!!畜生!!よくも・・・よくもぉっ!!」 桜花「・・・逃げて・・・みんな逃げて」 レナ「詩ぃちゃん!沙都子ちゃん!梨花ちゃん!逃げるよっ!!」 詩音・沙都子・梨花「「!?」」 詩音「何言ってるんですかレナさん!!お姉や圭ちゃんや桜花さんを見捨てるっていうんですか!?」 レナ「今ここで逃げないと皆捕まる!!それだけは避けなくちゃいけない!!だから・・・だから走って!!」 圭一「し・・・詩音!!レナの言うとおりだっ!!」 魅音「あたし達の事はいいから・・・逃げて・・・詩音・・・」 詩音「二人ともっ・・・!!クソっ!!クソッタレ!!」 レナ「梨花ちゃんと沙都子ちゃんも行くよっ!!」 沙都子「こんなの・・・こんなのって・・・くっ・・・行きますわよ梨花っ!!」 梨花「皆・・・必ず・・・必ず助ける!!絶対に!!」 圭一「レナー!!!!・・・・皆を・・・皆を頼んだぞっ!!!」 レナ「・・・任せてっ!!」 詩音「ハァッ・・・ハァッ・・・」 レナ「ここまで来れば・・・一安心・・・かな・・・かな・・・」 沙都子「ぜぇっぜぇっ・・・恐らく・・・大丈夫だと思いますわ・・・」 梨花「げほっ・・・げほっ・・・ここは・・・裏山?」 沙都子「どうやら・・・けほっ・・・そのようですわね・・・」 レナ「裏山なら・・・後は二人と詩ぃちゃんがいれば・・・大丈夫だね」 詩音「レナさん!?あなたまさか!?」 レナ「うん。レナは戻ろうと思う。詩ぃちゃん、二人を頼んだよ」 詩音「ちょっと待って下さい!!それなら・・・それなら私も!!」 レナ「駄目だよ詩ぃちゃん!詩ぃちゃんは沙都子ちゃんのお姉さんなんでしょ?だったらお姉さんとして妹と妹の友達を全力で守ってあげて!」 詩音「そんな・・・そんなの卑怯です・・・卑怯ですよ・・・レナさん・・・断れるわけ・・・ないじゃないですか・・・」 レナ「卑怯でもいい。だから詩ぃちゃん、生きて。生き延びれば必ず活路はあるはずだから」 詩音「絶対・・・絶対三人とも連れて帰ってくださいね。じゃないと私・・・レナさんのこと許さないんですからね!」 レナ「うん。約束する!!」 さっきから何発殴られただろう? 10発までは覚えていたが、後はもう忘れちまった 今じゃ魅音をかばって殴られてるのか、桜花さんをかばって殴られてるのか、二人のどちらかにかばわれてるのかもわからない 腫れ上がった目で相手の顔を見て腕を振るうが、いかんせん大人の腕にはわなわないみたいで、さっきから殴り返す事もできやしない せめて武器があれば・・・リーチの差を縮めれるぐらい長くて、相手の攻撃を受け止めても平気なぐらい硬い そう、金属バットでもあれば違っていたのだろう ちくしょうちくしょうちくしょう 殴られ続ける俺の耳に、獣のような声が聴こえた 半ば見えなくなっちまった目でその声の方を見ると、真っ白い姿の何かが村人に飛びかかってるのが見えた レナの馬鹿野郎・・・お前素手じゃないか・・・ せめていつもの・・・いつもの鉈でもあればそんな奴らあっというまにボコボコにできるだろうに でも嬉しかった。どうやらそれは魅音も同じようで、さっきまでされるがままに殴られていたはずなのに、今ではフラフラとしながらも反撃しようとしている そんな姿を見せられたら、俺だって頑張らないといけないじゃねえか 全く、困った奴らだぜ二人とも 胸の底から咆哮する 俺の腕はまだ動く さあ、反撃の時間だ前原圭一!!クールになれ前原圭一!! 運命なんて金魚すくいの網みたいなもんだ!! 羽入は不安だった 胸の奥がザワザワする 桜花が作ってくれと頼みにきた薬を渡して以来、どうにも落ち着かない 明日にでも様子を見に行ってみようか? いや、万が一私の姿が見える者がいては困る そう、この前の梨花とかいう娘のように だが何故だろう? あの娘を見ると、なぜか不思議な感覚になる まるで桜花を見たときのような・・・いや、似ているが少し違う感覚 羽入「他人の・・・空似なのですよ・・・」 誰に聴こえるともなく呟く そんな時、彼女の元へ走ってくる者達が見える 念のため隠れておこう 万が一見つかったときは・・・神隠し、いや鬼隠しにあってもらえばいいだけなのだから 梨花「羽入!!出てきて羽入!!」 詩音「梨花ちゃま、本当にここに羽入さんがいるんですか?」 梨花「ええ。間違いなくいるわ」 沙都子「なら梨花を信じるしかありませんわ。羽入さん!出てきてくださいまし!!大変なんですのー!ほら!詩音さんも声を出して!!」 詩音「わ、わかりました。羽入さーん!出てきて下さい!桜花さんが大変なこ」 羽入「桜花と申したか娘」 詩音「ひっ!ほ・・・本当にいた・・・」 羽入「答えよ娘。桜花に何があった」 梨花「説明は走りながらするわ。今は一刻を争うの。急いでっ!」 沙都子「そんな・・・そんな・・・」 詩音「お・・・姉・・・?」 梨花「レナ・・・レナああっ!!」 棒で体中を滅多打ちにされた魅音とレナ 刃物で首を何度も切られ、まるで掻き毟ったような傷を晒す圭一 死んでいると誰の目にもわかる そしてその中心で泣き叫びながら殴られる桜花 周りでそれを見て笑う亡者の如き村人 口々に「薬の場所はどこだ」と言いながら桜花をなぐる 「こいつらみたいになりたいのか」と言いながら皆の亡骸を踏みつける 地獄のような有様 そして鬼の瞳に灯がともる 羽入「貴様等・・・貴様等ぁぁぁっ!!!」 羽入「死ね!!死ね!!死んでしまえ!!」 村人「ひ・・・ヒィッ!!」 沙都子「あ・・・あぁ・・・」 詩音「ひ・・・ヒヒ・・・あは・・・あははははははは」 梨花「羽入・・・そんな・・・こんなはずじゃ・・・」 羽入「死ね!しね!シネ!!」 村人「ひ・・・ぎゃっ!!」 梨花「これが・・・これが私達のここに来た理由だっていうの・・・・教えて・・・教えてよ羽入・・・」 村人「ギャアアアアアアアッ!!」 桜花「やめて・・・羽入・・・」 羽入「なんと人間とは醜い」 詩音「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」 梨花「やめてっ!!詩音は違う!!詩音はあなたをっ!!」 羽入「貴様は潰れて死ね」 詩音「ひ・・ぶっ!!」 羽入「貴様は頭を打ち抜かれて死ね」 梨花「やめて・・・沙都子は・・・沙都子だけは・・・」 沙都子「や・・やめ・・・ぎゃっ!!」 羽入「貴様だけは見逃してやろう。だが、二度と私の前に現れるな。現れれば殺す。今から殺す者達と同じように貴様も殺す」 梨花「あ・・・あ・・・・」 桜花「なんてことを・・・なんてことを・・・」 桜花「羽入を・・・殺します」 梨花「・・・・それしか・・・ないのね・・・」 桜花「はい。今も羽入は村人を襲っています。止められるのは、古手の血を引く私だけ」 梨花「どういうことかしら?」 桜花「羽入を傷つけられるのは古手の血を帯びた武器だけ。そう以前教えられたのです・・・母に」 梨花「・・・羽入はあなたの・・・?」 桜花「はい。そして私の出来る事は、狂った家族に対して村人の、そして梨花さんの仲間たちの敵を取ること」 梨花「なる程ね・・・いいわ、なら私にだってできるわねきっと」 桜花「・・・いいのですか?」 梨花「狂った家族が家族を殺した。だからそのケジメを付ける。それだけの事よ」 桜花「わかりました。それでは行きましょう」 梨花「ええ」 羽入「どうして・・・どうしてですか桜花・・・僕は鬼にも劣る薄汚い人間を罰しただけなのに・・・」 桜花「私も・・・その薄汚い人間なのですよ」 羽入「あ・・・」 桜花「鬼よ・・・覚悟!!」 羽入「や・・・やめて・・・やめてください桜花!!」 桜花「黙れ鬼め!!」 羽入「ひ・・・ひぃっ!!」 桜花「梨花さん!!今です!!」 梨花「うわああああああああっ!!!」 例えああは言っても、僅かに躊躇する そう確信して踏み込む 腕にずっしりと感じる鉄の塊には、私の血がべったりと塗られ真っ赤に光る 後3cm 更に踏み込み、腕に抱えた鉄の塊を打ち下ろす ごめんなさい羽入 私はあなたを救えなかった だからせめて終わらせてあげようと思う 私の手で 羽入「邪魔をするな人間!!」 あれ?どういうことだろう? からだがかるい ああ、そうか。わたしのないぞうがとびでてるんだ あのつめではらをさかれたのか きっとこれは・・・あなたを救えなかった罰なのだ 遠くで桜花の声がする ぼんやりと二人の姿が見える 泣きながら羽入に飛びかかる桜花 泣きながら逃げようとする羽入 斬り込む桜花 顔をかばう羽入 そのかばった爪を易々と斬り落とし、爪で受け止め切れなかったのか、羽入の角に傷がつく そうか、これが羽入の角の傷の正体 なんて悲しい傷 ずっとそんな傷を抱えてあなたは笑ってたのね ごめんなさい 謝っても謝りきれない程のごめんなさい 今更でしかないごめんなさい ごめんなさい羽入 ふっと身体が軽くなる またこの感覚は覚えてる 私が殺され、時を遡る時のあの感覚 周りを見渡すと圭一もレナも魅音も沙都子も詩音もいる 皆は気を失ってるのか、ピクリとも動かない そして、羽入は居ない 梨花「羽入・・・ごめんなさい・・・」 「ごめんなさい梨花さん・・・」 梨花「・・・桜花・・・なのですか・・・?あの時の声もこの声も・・・ボク達を呼んだのも」 桜花「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」 梨花「謝らないでくださいなのです・・・結局ボク達は何も出来なかった・・・そして死んでしまった・・・それだけなのです」 桜花「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・本当にごめんなさい・・・」 梨花「もういいのですよ・・・あ・・・一つだけ教えて下さいなのです・・・ボク達は今度はどこに行くのですか・・・?」 桜花「あなた方が行くのは、数多ある未来の中でも私が考えうる最高の未来・・・これが・・・せめてものお詫びです」 梨花「最高の・・・未来・・・?」 桜花「はい・・・こんな事じゃお詫びにならないとわかっています。それでも・・・それでも・・・これぐらいしかできないのです私には」 梨花「その未来に・・・羽入はいるの・・・?」 桜花「いいえ、いません。私と母があの場所で消えた先です」 梨花「そう・・・」 桜花「それでは・・・」 「ごめんなさい」 〜前原圭一〜 圭一「じゃあ、塾行って来るよ母さん!」 母「行ってらっしゃい圭一。頑張ってくるのよー!」 圭一「おう!任せとけ!!今度もオール100点だぜ!!」 学校や塾の勉強は少しだけ楽しくなかったが、持ち前の明るさで友人とテストで競い合いつつも笑い会える仲に 現在、某有名高へ行くために日々勉強と遊びに夢中 〜竜宮礼奈〜 礼奈「じゃあ行ってくるねお父さん!お母さん!」 父・母「行ってらっしゃい礼奈」 一時期、母の浮気未遂により両親の離婚の危機となったが、一晩両親を交えて話し合い元の鞘に 以降は近所でも有名な仲のいい家族と言われるほどとなる 〜園崎魅音〜 魅音「それじゃあ学校行って来ますね」 お手伝い「行ってらっしゃいませ」 魅音「あ、今日は悟史君と晩御飯食べる予定なんで、鬼ババにはうまく伝えといて下さい♪」 過去に妹である詩音を可哀想に思い、悪戯で入れ替わってたりもしたが、ある日こんな同情は間違ってると反省し、以降は園崎家跡継ぎとして奮闘する 北条家の長男である悟史と恋仲になった際は、周囲の反対を押し切り現在に至る 〜園崎詩音〜 詩音「そんじゃあ行ってくるよ葛西さん!」 葛西「お気をつけて」 詩音「もー!そんなに硬い喋りじゃなくていいっていってんのにー!」 過去に姉を羨み、甘えたりもしたが、ある日強くならなければと思い、以降は自分という存在を強く持つ 忌み子ということもあり当初は迫害を受けもしたが、姉の魅音の協力もあり、今では有名な双子となって元気に走り回っている 〜北条沙都子〜 沙都子「ほら!行きますわよにーにー!」 悟史「ま・・・待ってよ沙都子・・・もう、お父さんとお母さんも何とか言ってやってよ!」 父「ははは。悟史!男は俺みたいに強くなくちゃいかん!な?母さん!」 母「うふふ。そうですわね」 悟史「・・・むぅ」 沙都子「全くもう!そんなんじゃ魅音さんに笑われてしまいますわよ!」 ダム戦争の際、反対派だった為に村から迫害を受けるも、兄より力強い精神で今では村の住人から一目置かれる存在に 義理の父と園崎お魎を相手取っての啖呵は見事だったという 今ではお魎の良き茶飲み友達に そして 梨花「行ってきますですよ、お父さんお母さん」 父「行ってらっしゃい梨花」 母「車に気をつけるのよ梨花」 梨花「はいなのです、お母さんは心配性なのですよ、にぱー☆」 母「あら、言ったわねー。これはもう晩御飯のハンバーグ50%カットね♪」 梨花「み〜!!それは許してほしいのですよ」 母「嘘よ♪さあ、行ってらっしゃい」 梨花「はーいなのです」 家の外に出て、神社の境内を見つめる なぜか昔からこの境内を見つめると不思議と涙が出てくる 小さな頃はよくそれが原因でお母さんがないていたなぁなんて思い出す チリチリと胸を焦がす焦燥感 大事な何かが足りない喪失感 でも今はとても幸せ とても幸せ でも何故だろう とても大事な人が居なくなってしまったのだ 「はにゅう・・・」 知らず知らずの内に口からこぼれる言葉と目から落ちる涙 いけないいけない。何を考えてるんだろうボクは 口から出た言葉を追い払い、涙を拭って学校へ行く でもなぜか言わなければいけない気がして境内に振り向いてこの言葉を言う 「ごめんなさい」