憲法9条の世界史的意義
                            報告:二見 伸吾 
(労働者教育協会常任理事)
http://www.ne.jp/asahi/hirosima/gaku
 
●はじめに
 
1.前文と9条が切りひらいた新しい考え方
 
(1)世界の平和を愛する人びとを信頼して平和な社会をつくる
 
 「(私たちは)人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」(前文)
 
 ユネスコ憲章も同じ観点
 「政府の政治的及び経済的取極のみに基く平和は、世界の諸人民の、一致した、しかも永続する誠実な支持を確保できる平和ではない。よって平和は、失われないためには、人類の知的及び精神的連帯の上に築かなければならない」(憲章前文)
 
(2)武器はもたない、戦争をする権利ももたない
 
 「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」(9条第2項)
 
 戦争違法化の最高の到達点
 
(3)「平和に生きる権利」という新しい人権の提起
 
 「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有する」(前文)
 
●9条第1項を実現するてだてとしての第2項
 
 第1項「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」
 
 これが第2次世界大戦後の世界標準→国連憲章
第2条第3項「すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決しなければならない」
同第4項「すべての加盟国は、その国際関係において、武力よる威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない
 そして、この国連憲章=憲法9条第1項のもとは「パリ不戦条約」(1928年)
 
 第1項だけでは平和を貫くことができなかった反省から第2項が追加された
 
 アジアの戦争被害 約2000万人の戦死者 
 
 9条を誕生させた第一要因 アジアの人びとの「平和へのねがい」
 
●ヒロシマ・ナガサキの経験が9条に 
 
  〜文明が戦争をなくすか、戦争が文明をなくすかの瀬戸際
 
  国連憲章と日本国憲法の共通点と違い
 
なぜ日本国憲法は徹底した平和主義に到達しえたのか?
 
9条を誕生させた第二の要因 原爆投下による惨害。戦争の行きつく先がみえたこと。
 
 「次回の世界戦争は一挙にして人類を木っ端微塵に粉砕するに至ることを予想せざるを得ない」
「文明が速やかに戦争を全滅しなければ、戦争が先ず文明を全滅することになるでありましょう」(幣原国務大臣の答弁。貴族院本会議1946年8月27日。星野安三郎『平和に生きる権利』法律文化社、43ページ)。
 
 「次ニ第九〔条〕ハ何処ノ憲法ニモ類例ハナイト思フ。日本ガ戦争ヲ抛棄(ほうき)(=放棄)シテ他国モ之ニツイテ来ルカ否カニ付テハ余ハ今日直(ただち)ニサウナルトハ思ハヌガ、戦争抛棄ハ正義ニ基ク正シイ道デアツテ日本ハ今日此ノ大旗ヲ掲ゲテ国際社会ノ原野ヲトボトボト歩イテユク。之ニツキ従フ国ガアルナシニ拘(かかわ)ラズ正シイ事デアルカラ敢()ヘテ之ヲ行フノデアル。原子爆弾ト云ヒ、又更ニ将来ヨリ以上ノ武器モ発明サレルカモ知レナイ。今日ハ残念乍(なが)ラ各国ヲ武力政策ガ横行シテ居()ルケレドモ此処二十年三十年ノ将来ニハ必ズ列国ハ戦争ノ抛棄ヲシミジミト考ヘルニ違ヒナイト思フ。其ノ時ハ余ハ既ニ墓場ノ中ニ在ルデアラウガ余ハ墓場ノ蔭カラ後ヲフリ返ツテ列国ガ此ノ大道ニツキ従ツテ来ル姿ヲ眺メテ喜ビトシタイ」(1946年3月20日枢密院ニ於ケル幣原総理大臣ノ憲法草案ニ関スル説明要旨)
 
2.歴史の本流としての「第9条」
 
●「戦争違法化」の20世紀
 
  第一次世界大戦 → 国際連盟、ILO  パリ不戦条約
  第二次世界大戦 → 国際連合、ユネスコ、そして日本国憲法
 
●ベトナム戦争と「東南アジア友好協力条約」(TAC) (1976年)
 
 主権の尊重、内政不干渉、紛争の平和的解決と武力行使の放棄
 
 ASEAN10カ国(タイ、ラオス、カンボジア、ベトナム、マレーシア、フィリピン、ブルネイ、シンガポール、インドネシア、ミャンマー)
 +中国、韓国、日本、モンゴル、ロシア、インド、パキスタン、ニュージーランド、パプアニューギニア、オーストラリア 世界人口の約半分
 
●アメリカによるグレナダ侵攻と国連
 
 1983年 国連総会初のアメリカ批判決議
 
  国連憲章がようやく国際政治の現実のルールとして認知
 
ハーグ世界市民平和会議(1999年)「行動指針」
 
 国連ミレニアムサミット(2000年) NGO 「決議」から「憲法へ書き込もう」と発展
 
ユネスコ「平和の文化」(1999年)の提唱
 
  果たし合いから話し合いへ
  国際的な道理に立った外交と平和的な話し合いで問題を解決する
 
●GPAC(武力紛争予防のためのグローバルパートナーシップ)
 
Global Partnership for the Prevention of Armed Conflict(=武力紛争予防のためのグローバルパートナーシップ)の頭文字を取ったのが「GPPAC」。
 2001年、国連のアナン事務総長が報告書の中で「紛争予防にける市民社会の役割が大切」だと述べ、紛争予防に関するNGO国際会議の開催を呼びかけた。これに応えて発足したプロジェクトがGPPAC
 
  2005年7月、ニューヨーク国連本部にて採択されたGPPAC世界提言
「平和を築く人びと 武力紛争予防のための世界行動提言」
 「世界には、規範的・法的誓約が地域の安定を促進し信頼を増進させるための重要な役割を果たしている地域がある。たとえば日本国憲法第九条は、紛争解決の手段としての戦争を放棄するとともに、その目的で戦力の保持を放棄している。これは、アジア太平洋地域全体の集団安全保障の土台となってきた」
(ピースボートホームページ。 http://www.peaceboat.org/info/gppac/global_agenda.pdf)
 
●世界平和フォーラムin バンクーバー
 
 バンクーバー平和アピール2006:平和を作ろう!
 
 ▼「都市とコミュニティー:戦争を終わらせ、公正で持続可能な世界を作るために」というテーマをもって第1回の世界平和フォーラムがバンクーバーにて6月23日から28日まで行われた。
 
 ▼2006年現在、私たちの目前にはイラクにおける違法な戦争と占領、人種差別、市民の自由の侵害、新しい核の脅威、そして地球温暖化の問題が立ちはだかっている。「対テロ戦争」は人権と国連の役割をおとしめた。世界で貧困が広がり、ホームレスや疫病が増加、経済格差が拡大している一方で軍事費は空前の額に上っている。
 
 ▼この歴史上における危機的な分岐点にあって、バンクーバー世界平和フォーラムでは、戦争のない世界を作ることは可能であるとの結論にいたった。この結論に向かうために、私たちは市民の声を聞き、以下のことを行うことを宣言する。
 
・ 社会的正義、人権と民主主義的権利、経済的な平等のある公正な平和を構築する
・ 若者や子どもに対して平和の文化をはぐくむための教育を行う
・ 先住民のニーズと権利を認識する
・ 違いの持つ価値を尊重する
・ 女性と若者の平和創造における主導的な役割を確保する
・ 戦争は人道に対する罪であることを宣言するとともに戦争の即時停止を求める
・ 環境の保護を強く求める
・ 核兵器およびその他の大量破壊兵器の廃絶にむけて行動する
 
  ▼上記を達成するために、以下のことを要求する:
 
1.イラク、アフガニスタンからの外国軍の撤退
2.国際法及び国連決議の枠組みの下でのイスラエル・パレスチナ問題の交渉による解決
3.地球温暖化問題と持続可能なエネルギー政策に取り組むという決議
4.国連安保理決議1325の履行による女性の完全で平等な社会参加
5.拷問の停止とグァンタナモ刑務所の閉鎖
6.軍事費の削減と人間のニーズへの転換
7.各国政府による憲法上での戦争放棄(例えば日本の9条のように)
 [We callfor] Governments to constitutionally renounce war (eg. Japan's Article 9)
8.国連総会のより強力な役割
9.国連による特別総会と「軍縮の10年」開催の宣言
10.各国による検証可能で不可逆的な核軍縮の交渉
 
 ▼私たちは以下についてここに誓う:
 
・市、コミュニティ、市民を平和のために機動させる
・平和の文化を育て、平和教育、芸術、メディアを通して人間の精神を強化する
・より効果的なネットワークを作り、多様性の持つ利点を有効にもちながら、協力を育て、共通の立場を持つ
・世代を超えた協力を行う
・公正な平和に深く関連している社会的、持続可能性に関する問題で活動している人々を支持する
・過去に学び、過去に起きた過ちを謝罪し、過去の不正に対して補償する
・平和を創造し構築する市民社会の能力を認識する
 
 私たちは、平和で公正、持続可能な世界を手に入れるために、人々を力づけ、お互いの努力を結びつけあい、希望を育んでいく。私たちは戦争のない世界――私たちの子どもに残していける世界――を強く望んでいる。
 
3.憲法で創るもう一つの日本、もう一つの世界へ
 
 貧困と戦争とHIV・エイズという三重の危機が子どもたちを襲う
 
 1990年以降 紛争で死んだ人360万人。その半数が子ども。
  数十万の子どもが兵士
●国連「ミレニアム開発目標」と日本
 
 1日1ドル以下で生活する人口を半減させる
 男女のすべての子どもたちが初等教育の全課程を修了できるようにする
                            70170億ドル
 初等・中等教育におけるジェンダーによる格差を2005年までに解消し、すべての教育レベルでのジェンダー格差を2015年までに解消する。
 5歳未満児の死亡率を3分の1に削減
 妊産婦死亡率を4分の1まで削減する
 HIV・エイズの蔓延を食い止め、減少させる
 マラリアその他の疫病の発生を食い止め、減少させ始める
 安全な飲料水および基本的な衛生設備に持続的にアクセスできない人口の割合を半減させる。
 
  これらを実現するために必要なのは400700億ドルと試算されている
(ユニセフ「世界子供白書2005」)
  世界の軍事費は年間1兆ドル(約100兆円) 
    その44%がアメリカで、日・英を加えると52%
  
  2003年の日本の国防費は48000億円(約500億ドル)。世界第2位
  
  岩国など在日米軍の駐留経費負担 総額 約6000億円
 
   6000億円あればアジアのHIV感染者(500万人)への援助が5年できる。
 
  8400億円あれば、途上国の子どもすべてに基礎教育を
 
●憲法にもとづく安全保障
 
  日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する
 
   武力による安全保障の時代は終わろうとしている。
  人間の安全保障 その先駆としての日本国憲法。
  時代がいま憲法に追いついてきている