初めてのおつかい




ザフィ「ふむ、クリスマス……?
    最近どうも街が赤いと思っていたのだ」

 TVを見ながら、誰ともなくザフィーラはつぶやいた。
 守護騎士達は、当然ながら第97管理外世界の風習には疎かった。

はやて「あー、ケーキとチキン忘れてたわ。
    予約はもう入れたぁるさかい、取りに行ってくれるか?」

ザフィ「承知。……して、場所は?」

はやて「翠屋さんって……わかるやろ?」
    ほな、これ、予約引き替え券な。
    もう精算も済ませたぁるから、大丈夫や」

 ザフィーラは、2枚の伝票と思しき紙を首輪に挟まれた。

ザフィ「は、主」

はやて「あ、せっかくや、自分もこれつけて行き」

ザフィ。o○(赤い丸い……つけ鼻か? ……角? 鈴?? ますますわからんぞ!?)

はやて「これつけてたら、今日は誰も怖がらへん。
    せやけど、ケーキは丁寧に運んでや?
    ぐちゃぐちゃになってたらヴィータにギガント食らうで?」

ザフィ「はい……では」

はやて「ほな、いってらっしゃい(ニヘラ」

 ちりんちりんちりん……

はやて「あはは、もう、かわいらしなあ。
    ……そや、翠屋さんに犬がケーキ取りに行きますって、電話しとこ」

ちりんちりん……

ザフィ。o○(むう……いつもと違って子供が怖がらない!
      主よ、これはすばらしい『おぷしょん』ですぞ!)

女の子「うわー、となかいさんだー」

ザフィ「わふん(ノシ」

女の子「わーい♪」

ザフィ。o○(うむ。こうでなくてはな……)

 ちりんちりん……

 ザフィーラは、翠屋への道をちりんちりんと鈴の音を響かせながら歩いた。

 かららん♪

桃子「はーい、いらっしゃいま……あら?」

美由希「あ、ザフィーラだー! 今日はかわいいー!」

 もふもふもふもふ……

桃子「ああ、連絡のあった八神さんところね?
    えーっと、チキンのLセットと、ケーキのMが1つ、と」

ザフィ「わふわふん(つ 引き換え券)」

桃子「あら、かしこいワンちゃんなのね〜」

美由希「ザフィーラはいい子だよ、母さん」

桃子「そうね〜。あ、おまけにコレあげましょ。メリークリスマス♪」

ザフィ「!!! わふーん!!(この臭い……バターキャンディだ!!)」

ザフィ。o○(クリスマスとは、すばらしいものだ……)

 ちりんちりん……

 ザフィーラは、首にケーキとチキンの入った箱を下げながら、家路を急いだ。

 ちりんちりん……

ザフィ。o○(ケーキ崩さないように、ケーキ崩さないように……
       おや? さっきの女の子ではないか?)

 ちりんちりん……

ザフィ「わふ?」

女の子「あ、トナカイさん……」

ザフィ「わふわふ……?」

女の子「……迷子になっちゃったよ、どうしよう……うわ〜ん・゚・(つД`)・゚・ 」

ザフィ。o○(迷子とな!? ……しかし、この辺の地理と言っても……)

 ぱたぱた ちりんちりん

ザフィ。o○(どうする……)

ザフィ。o○(そうだ! この手があったか!)

ザフィ「わふーん!」

 ぱくっ くいっくいっ

 ザフィーラは女の子の首筋をくわえて、そっと自分の背中に乗せた。
 もちろん、ケーキの箱に気を使いながら。

女の子「となかいさん?」

ザフィ「わふ」

ザフィ。o○(この女の子の臭いを逆にたどれば大丈夫な筈…)

ちりんちりん……

女の子「……おうちまでつれていってくれるの?」

ザフィ「わふん」

女の子「ありがと、となかいさん」

ちりんちりん……

ザフィ「わふ」

女の子「え!?
    わたしにくれるの?」

 それは、桃子さんから貰ったバター飴。

 ちりんちりん……

 ザフィーラは造作もなく臭いをたどっていったが、それは突然とぎれていた。
 バス停留所。
 折しも、一台のバスが出たところだった。

ザフィ。o○(交通機関か……これは『ばす』と言うものだったな……)

女の子「あ、あのバス!
    あの緑色のバスに乗ったよ!」

ザフィ「わふん!(まかせろ!)」

 ザフィーラは迷わず、バスを追う。
 しかし、地上では車や人が邪魔になった。
 しかも、ケーキに気を使わなねばならない。

ザフィ「わふ━━━━━━━━━━━━ん!!!」

女の子「うわあ! すごい、すごいよとなかいさん!!」

 ザフィーラは文字通り、飛んだ。
 結界を張ったから、おそらく大丈夫だろう。

 バスにはすぐに追いついた。
 ザフィーラはその後を追うようにして悠々と女の子を乗せて飛んだ。

女の子「あ、ママだ!」

ザフィ「!!」

ママ「みやちゃーん! みやちゃん、どこー?」

女の子「ここ、ここだよー!」

 ザフィーラは、軽く旋回して着地し、その女性の前で女の子を降ろした。
 そのままそっと、距離を開ける。

ママ「みやちゃん!?」

女の子「ママ!!」

ママ「大丈夫? ずいぶん探したのよ?」

女の子「うん、となかいさんがたすけてくれたの」

ママ「となかいさん!?」

女の子「うん!
    ……あれ?
    となかいさん? となかいさん、どこ?」

ママ「あなたはママが振り向いたらそこにいたのよ?」

女の子「うん、でも……」

ママ「……そうね。
   ホントに神様が助けてくれたのかも知れないわね。
   今日はクリスマス・イブで、あなたの誕生日だもの、ね?
   聖夜(みや)ちゃん?」

女の子「うん!
    ありがとー、となかいさん」

ザフィ。o○(ふむ、クリスマスとはそういうものなのか……)

 ちりんちりん……

ザフィ。o○(ケーキ崩さないように、ケーキ崩さないように……)

 ちりんちりんと、ザフィーラは家路を急いだ。
 ……今度は道を使わずに、空中を結界を張ったまま急いだ。

 ちりんちりん……

 あれに見えるは、我らの主の家。
 大事な主と、仲間が暮らす我が住処。

 ちりんちりん……

はやて「あ、ザフィーラお帰り」

ヴィ「ずいぶん遅かったじゃねーかよ!」

シャ「おかえりなさい。もう準備は出来てるわよ」

ザフィ「わふん」

 みんなが、揃って笑顔で出迎えてくれた。
 こんなに嬉しいことはない。

シグ「……寄り道でもしていたか?」

ザフィ「うむ、そんなところだ。
    ……クリスマスというやつを、少し味わった」

シグ「楽しかったか?」

ザフィ「……ああ」

シグ「なら、いい」

はやて「ほら、みんな揃ったし、はよ食べよ!」

ヴィ「でっかいケーキだなー!」

シャ「おいしそうですね〜」

シグ「さすが翠屋さんです。このチキンの照りもすばらしい」

ザフィ「わふーん!」

はやて「あ、先に歌や!」

3人+1匹「歌!?」

はやて「私が歌うから、みんなも覚えて歌ってや?」



  きよしこの夜 星は光り

  すくいの御子(みこ)は

  御母(みはは)の胸に

  ねむりたもう 夢 やすく



はやて「メリー・クリスマスや!」

3人+1匹「メリー・クリスマス!!」

(了)